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【福島・お芝居・3.11後】自由民権運動の青春を描いた演劇「天福ノ島」

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©︎はっぴーあいらんど☆ネットワーク

 

こんにちは!

マンガ好き京都司書/右下Webライターの徳田なちこです。

 

普段、演劇などはほとんど観る習慣のない私なんですが、

ずっとずっと紹介したいと思っていたお芝居があるので、紹介します。

 

 

京都から福島まで日帰りで観に行ったお芝居

「制県レベル」の記事にも書いたんですけど、

 去年から「47都道府県 全部行った制覇」を目指し始めて、

これまでに行ったことのない県 or 通過しかしたことのない県を精力的に消化してました(笑)。

 

とにかく、何かしらの目的を持って訪ねた(歩いた、食べた、遊んだ)ら、自分基準ではOK

去年( 2017年)は、10県を新たに「行ったことのある県」にすることができました(^o^)v イェイッ

 

その中でも、我ながら語るに値すると思っているのが、

京都から福島に日帰りで行ってきたこと。

 

大阪の福島じゃないですよ!?

(※知らない方へ大阪環状線大阪駅の隣の駅が「福島」っていうんです)

もちろん東北地方の最南県、福島県です。

 

京都(山科)ー福島(猪苗代)を日帰りでって…

ほんまトンボ帰りじゃないとできませんからね。

 

はっきり言って、もったいない!

せっかくお金も時間もかけて行くのに、日帰りって…!

我ながらクレイジー!

 

でも、その時は、仕事の都合上どうしても日帰りじゃないと無理だったんです。

 

でも逆を言えば、「日帰りなら、行ける」とわかった時に、

これは行きたい!って強く思ったってこと。

そうまでして行きたかった理由は何なのかって…?

 

それが、『天福ノ島(てんぷくのしま)』というお芝居でした。

 

紹介映像

 

3.11後の福島に行くのであれば、「ちゃんと行きたい」

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『天福の島』について語る前に、少し、私の福島に対する気持ちを書きます。

 

正直なところ、福島県は、47都道府県の中でも最後まで残るだろうなぁって思ってました。

 

残ってる県をひとつずつ検討して、行く目的(何をしに行きたいか・何を観たいとか、誰に会いたいとか、何を食べたいとか)を考えていった時に、福島県だけ、特にこれといって行きたくなる要素がなかったんです。

 

さらに言えば、3.11以降、関東に住んでいても福島第一原発事故由来の放射性物質の飛散・堆積をむっちゃ気にしてた私にとっては、むしろ、よっぽどのことがなければ行かないようにしたいとさえ思っていました。

 

福島第一原発から漏れた放射性物質のうち、

セシウム134半減期2年、セシウム137半減期30年です。

数年経てば影響がなくなるようなもんじゃありません。

除染やモニタリングが行われ、日常生活を営めると判断する人もいる一方で、「ホットスポット」と呼ばれる、放射線量が局地的に高くなっている場所がまだ存在する可能性もあります。

 

もちろん、原発事故後もそこで暮らし続けることを選択した人たちがいることもわかっているし、こういうことを言ったり思ったりするのは、そういう人たちに失礼なのではないか、という声があることも知ってます。

 

人生の選択は人それぞれだし、私は「苦悩した結果、自分自身で人生の選択をした人」を尊重したいと思っているし、誰も病気になってほしくはないです。

私自身もまた、3.11後の生き方や住む場所については、ここに書き切れないくらいたくさんのことを考えた結果、いくつもの選択を重ねて、今ここにいます。

 

だから、もし3.11後の福島に行くことがあるのなら、「ちゃんと行きたい」と思ってたんですね。

 

「ちゃんと行きたい」って何なんでしょうか。

 

自分でもよくわからないけど、とにかく「ただ観光しに行って、帰ってくるだけ」ってのは違うよなぁ、と(もちろんそれでも少しは地元の人の助けになることはわかってるんだけど。そもそも福島という土地が、私にとって何か思い出のある観光地とかだったなら、もしかしてそれも可能だったかも)。

 

そういう場所ではなくなってしまったよなぁ、と。

 

「ちゃんと行きたい」ってのは、

そこに生きてきた人、生きる人たちと話がしたい、ってことかなぁ。

あの事故を経験してしまった後の人生を生きざるを得ない人たちと、話がしたい(それで言うと、福島に住んでる人には限らないんですが)。

 

だから、何のつながりもなく乗り込んで、なんとなくお店や宿の人と何気ない会話を交わして、それで楽しめたり満足したりすることはないだろうと思ってました。

 

福島の人たちが、権力にさんざん無下に扱われて苦しんだり、したくもない対立をさせられて悲しんだりしているという情報を、間接的にではあるけど、見知ってしまっていたから。

 

そこに触れずに「福島に行く」のは、なんだか失礼なことであるかのように感じてたかなぁ。

 

ということで、「福島に行く」ことを考えると、安易には行かれない氣がする…と足が重くなっていたのが事実です。

 

なぜ『天福ノ島』を日帰りでも観に行こうと思ったのか 

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そんな私が、「日帰りでもいいから、とにかく福島に行きたい!」と思えたのは、

偶然、かすかなつながりが目の前にやってきたから。

「これは、タイミングなのでは!?」と思えたから。

 

『天福ノ島(てんぷくのしま)』は、2013年冬のピースボート82回クルーズ(脱原発クルーズ)で出会った大野沙亜耶(さあや)ちゃんが脚本を書き、演出をした演劇です。

 

福島県須賀川市NPO「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」の活動のひとつ、

「演劇プロジェクト」の第2弾としてつくられました。

 

はっぴーあいらんど☆ネットワークについてはこちら

http://www.happyisland-network.com/

 

沙亜耶ちゃんとは、10日間の船旅の間に、たぶん数えるほどしかしゃべってない氣がするし、もはやその時何をしゃべったのかも覚えてないし、沙亜耶ちゃんがどんな仕事で船に乗っていたのかもよくわかっていなかったんだけど(たしか、IWJ関連?)、船を降りた後もお互いfacebookでつながってはいて、時々近況を観察し合うような関係性で、まぁいつか何か機会があれば、今度はゆっくり話してみたいなぁと思っていた人ではありました。

 

なんとなく、ジャーナリストらしいということは感じていたものの、どんな人なのかよく知らないまま4年近い時間が経ち、ある日見かけた沙亜耶ちゃんのFacebook投稿にあったのが…

 

「福島で、自由民権運動のお芝居をつくっています。」

という文字。

 

その投稿を見て、彼女が脚本を書ける人だということを初めて知りました。

 

私自身は、特に演劇に興味があるというわけでもないんだけど、自分の身近に脚本を書いたり演出をしていたりする人というのが、ほとんどいないので、

「意外と身近に…!こんなにクリエイティブな人がいたとは!」という思いでまずテンションが上がりまして、そして次の瞬間には「会いに行きたい!生の波動感じに行きたい!」って思ってましたね。

 

ちょっと説明なんですが、今私は長編小説を書くことに挑戦していて(なかなか思うようには書けないでいるんですが)、「物語を作り出すことができる人(すでにできてる人)」には、ものすごい憧れとリスペクトがあります。

なので、身近に感じられる存在で、そういう人がいたら、できるだけ会いに行こうと思ってるんです。

そういう意味でも、かなり情熱を感じた出来事でした。

 

とは言え、お芝居の内容にあんまり興味がなければ、さすがに福島まで行くのはちょっと…躊躇いますよね。

 

どうやらお芝居のテーマは「自由民権運動」。

この時点では、あんまりイメージがつかないというか、正直よく知らない…しかも何で福島で「自由民権運動」?くらいな感じ。でしたけど、投稿を全部読んでみて、すごく観てみたくなりました!

自由民権運動。福島は、土佐と並び自由民権運動発祥の地と言われました。

なんで自由民権運動なの?って聞かれますが、知れば知るほど、「今こそ」って、ほんとうに思います。

もともとは、演劇プロジェクト第一弾の「U235の少年たち」の取材のときに、「福島は自由民権運動発祥の地なんだ、今度はそれをやってよ」と聞いたのがきっかけでした。

それが引っかかっていて、自由民権運動って板垣退助だよね?くらいの知識しかないまま調べはじめて・・・すごくのめり込みました。

なんて楽しい時代なんだ。明治初期。

富国強兵を掲げ軍拡増税の道を突き進む日本で、命をかけて弾圧の苦しみのなかを豊かに生き抜いた自由民権家たち。

福島は土佐にいちはやく呼応した民権運動の興隆の地で、その先頭に立ったのは、1020代の青年民権家たちでした。

調べるほど、クレバーでカッコイイ彼らのこと、もっと分かりたいってドキドキ。尊敬しています、ファンです、握手してください、みたいな。

元の投稿はこちら

 

どうですか?

特に「調べるほど、クレバーでカッコイイ彼らのこと、もっと分かりたいってドキドキ。尊敬しています、ファンです、握手してください、みたいな。」ってとこに、私は興味津々でした。

私がまだ知らないだけで、知ることができたらきっと「すごい!」と思えるものが、どうやらここにはありそうな氣がする…!って感じました。

 

日帰りで福島に行こうと決めた理由をまとめると、

・沙亜耶ちゃんと再会したい! 彼女のつくったお芝居が観てみたい!

・物語を生み出す人のクリエイティブな波動感じて来たい!

・福島に行きたいと思える理由ができた!

・無茶すれば行けなくもない、って思えるってことは、今がタイミングだ! 

 

特に、その時は「本当にこの1回きりの公演」だということで、

「これを逃したらもう観れないぞ感」も手伝って、

そんなこんなで、2017年10月29日、私は京都から猪苗代まで(JR777km!ゾロ目!)出かけて行ったのでした。

 

人ごととは思えなかった 現代日本にも通ずるテーマ「自由」と「権利」 

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『天福ノ島』の初演は、はっぴーあいらんど☆ネットワークが年に一度開催しているイベント「はっぴーあいらんど☆フェスティバル」(会場:猪苗代町体験交流館 学びいな)で上演されました。

 

福島における「自由民権運動」の青春物語ということで、明治時代だけが舞台かと思いきや、ストーリーは2017年の福島に住むある家族の話から始まります。

3.11後の福島に生きる人々の苦悩と、明治15年の福島で自由民権運動の先頭に立った青年たちとその周りの人々の葛藤をリンクさせてある構成が非常に印象的でした。

 

自由民権運動」と聞くと、歴史の教科書に出てきて暗記させられただいぶ昔のこと…くらいにしか感じなかった私だけれど、「自由」も「権利」も、現代を生きる私たちにとっても欠かせないもの。

 

『天福ノ島』の登場人物たちと比べたら、私たちは生まれた時からすでに当たり前にあるものとしての「自由」や「権利」をたくさん持っているように感じます。

普段は、そんなことについて全然考えないでも暮らせていけちゃったりします。

でも、もしもそれがなくなったら……実は、自殺したくなるくらいつらいものじゃないでしょうか?(福島では、生きる場所・故郷を奪われ、実際に自ら命を絶たれた方もいました…)

 

というより、「自由」や「権利」は、本当に私たちの手の中にあるんでしょうか?

 

特に印象的だったセリフは、(うろ覚えなので正確ではないですが)

「形のあるものは盗られたら気づけるけど、

 形のないものは盗られてもなかなか気づけない」

 

現代を生きる私たちも、本当は奪われているのに、「奪われている」ということにすら気づけていない「自由」や「権利」があるんじゃないか…そんなことを、考えさせられました。

 

…と、全編すごくシリアスな物語であるかのように書いてしまいましたが、実際は、真面目な話と、ユーモアたっぷりのお茶目やズッコケな場面がバランスよく共存し、ミュージカルのように踊りもあったりして、肩肘張らずに楽しめて、勉強にもなる、ほんまにいい作品でした。

 

役者さんたちの熱量も半端なかったです!

 

歴史物の醍醐味ですが、「時代は違えど、同じ人間(熱く、未来を夢見る若者)なんだなぁ」っていう感慨もありましたねぇ。

 

タイトル『天福ノ島』の「天福」とは、福島事件(自由民権運動の弾圧事件)を風刺して当時配布された浮世絵「天福六歌撰」(福島事件の被告6人=民権運動のヒーローたちを讃える内容)に由来しています。

これ、政府を「転覆」させる、と「天福」をかけてるんですねー。

このエピソードを知るまで、この演劇のタイトルについて、特に何も考えていなかった私。

「福」と「島」の字がそこに含まれていることにさえ無頓着だったので、「あ…!」ってなりました。


そして、そこからさらによくよく考えてみれば、

「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」の「はっぴーあいらんど」も、

「福の島」ってことなんですよね。

いい地名ですね…。

 

物語終盤、今と昔が交差するような場面がありました。

人々が、「問い」を抱えながら、ぐるぐると、ゆらゆらと、もやもやと、歩いていました。

結論はないんだな、と思います。

 

これも、最後の方にあったセリフ。

「私たちが直面しているのは、がんばろうとか復興とか分かり易い言葉の下に失われた、人間の尊厳の問題です。一人ひとりがどう生きるかという問題です」

「自由」と「権利」は、いつも「いのち」と「尊厳」につながっているんだと思います。

 

幕が降りたとき、会場は拍手喝采でした。

私も、心からのスタンディングオベーションをしました。

 

アンケートに書いた感想

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すごいなぁ、沙亜耶ちゃん。

こんな風に、観る人を感動させたり、考えさせたりできるなんて…。

ほんまにすごい。

 

沙亜耶ちゃんと2人で撮った写真です(私は終演直後で涙目のままw)

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終演後の沙亜耶ちゃんの投稿

「福島に、ちゃんと行く」は、一応、たぶん、できたように思いました。

ほんまにトンボ帰りだったので、この演劇に関わった人たちと話ができたかというと、できはしなかったけど、私の中に、ひとつの「つながりと思い入れ」を持つことはできたと思うので。 

 

そして、再演

その後、「この1回きりの公演」のはずだった『天福ノ島』は、再演の機会に恵まれたそうです。

 

【2018年1月13日・14日 三春公演】

福島県田村郡三春町(みはるまち)の再生古民家「デコ屋敷本家大黒屋 古民家」にて

 

 

昨日と今日は、東京版の公演&イベントも行われています!

(もっと早く告知できたらよかったけど…)

【2018年7月7日・8日 東京上映会&短編公演】

東京都豊島区の多目的スペース 「シネマハウス大塚」にて

 三春の古民家での再演の記録映像と、続編の短編演劇の上演、そしてトークだそうです。

『天福ノ島』Webサイト

http://www.happyisland-network.com/

 

それから、

201831日号のビッグイシュー日本版、
特集「8年目の福島―ふくしまの8人」では、

「〈芝居「天福ノ島」のこと〉自分のなかの火が消えないように」というタイトルで、歌子/ウタ役の千葉乙寧(おとね)さんの記事が掲載されてます

 

左側のページが記事
右側は、初演時のキャスト表とチケット

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バックナンバーは、街頭の販売者から買えます。

販売者が近くにいない場合は、3冊以上であればHPからも送付販売可!

 

最後におまけ~人生全部自分密着取材~

最近、座右の銘にしている「人生全部自分密着取材」って言葉を思いついたのは、この福島行の途上でした。

 

駆け出しライターらしい見積もりの甘さから、手に負えないほどの締切を抱えて、泣きそうになりながら、それでも毎日なんとか手を動かすしかない、全然進んでる感じがしない、ヒーヒー言いながら本当に死にそうな思いをしている時期に、まさか京都から福島まで日帰りで行って帰ってくる予定を自分でぶっこむなんて、我ながら頭おかしいんじゃないか…お金だって、とんでもない無駄遣いをしてしまっているのではないか…何度もそう思いそうになりました。

 

でも一方で、まさかこんな時に、まさかこんなクレイジーなこと思いついて実行しちゃうなんて、私ってばさすが~♪と思ってる自分もいたんですよね(笑)。

そんな私が思っていたのは、「おかしければおかしいほど、苦しければ苦しいだけ、たぶんネタになるし」っていうようなことだったと思います(たぶん多くの雑記ブロガーにはわかってもらえるであろうw)。

 

そんなことを考えてたら、降ってきた

「人生全部自分密着取材」

 

この言葉を受け取れただけでも、行った甲斐があったと、今では思います。

今後の私の人生を大きく支えてくれる言葉になる氣がしているので!

 

長々と読んでくださってありがとうございました! 

 

今日の東京版公演の成功と

沙亜耶ちゃんを始めとする、このお芝居をつくりあげたメンバーのさらなる活躍を祈って、この記事を閉じたいと思います。

 

こんなボリュームになるとは、自分でも思ってなかったよ〜〜〜(笑)。

書かせてくれて、ありがとう♡